大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)1897号 判決

被告人 玄[王幾]沢

〔抄 録〕

本件被害者李鐘洛の死因は論旨摘録のとおりであつて、すなわち被告人が原判示事情の下に両手掌を以て右被害者の両頬部及びその周辺を続けざまに力強く三回殴りつけ、そのため平素よりの飲酒癖によつて既に脳底部動脈に硬化症を来たし、その上当日の飲酒によつて脳血管の血圧上昇を来たしていた同人をして蜘蛛膜下腔出血に基く脳圧迫を起さしめ、これにより即時同人を死亡するに至らしめたものであることは、原判決挙示の証拠により明認し得るところである。論旨は右認定事実を関係証拠と対照するに被告人の李鐘洛に対する原判示殴打が同人の直接の死因でないことは勿論、その誘発原因とも認め難く、仮に誘発原因であるとしても誘発原因は死因そのものではないから、被告人に対し傷害致死の罪責を負わしめることはできないと主張する。しかしながら原判決援用に係る所論鑑定人中館久平作成の鑑定書によると、被害者李鐘洛に加えられた被告人の原判示殴打が、受傷時飲酒による脳血管の血圧上昇と共に右被害者の原判示蜘蛛膜下腔出血の誘発原因たり得べきことは疑を容れないところであり、しかも傷害致死罪における致死の原因たる傷害は、必らずしもそれが死亡の唯一の原因または直接の原因たることを要するものでなく、他の原因と相俟つて死亡の結果を招来した場合をも包含するものと解すべきであるから、たとえ本件被害者が予て脳底部動脈の硬化症を有し、且つ当時飲酒によつて脳血管の血圧上昇を来たしていたことが、これまた原判示蜘蛛膜下腔出血を誘発する原因をなしていたとしても、これがため被告人の原判示暴行と被害者の死亡との間に法律上相当因果関係がないとはいえない。それゆえ原審が被告人の原判示所為を傷害致死として認定処断したのは正当であり、論旨は採用するを得ない。

(谷中 坂間 荒川)

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